次世代の研究者たち 陽子線医学利用センターから生まれた最先端研究ファイル File No.1 熊田 博明

BNCTの小型加速器の開発を進めていらっしゃるそうですが、
現在の進捗状況はいかがですか?

BNTCの小型加速器の開発を進めていらっしゃるそうですが、現在の進捗状況はいかがですか?

現在、加速器の装置がほぼ出来上がってきて、ちょうどいま佳境の時期です。中性子を発生させる装置のほうも2015年春までに完成予定なので、夏までに中性子ビームを出し始める段階に入っています。
 実際の患者さんの治療に提供できるようになるまでには、細胞実験や動物実験で安全性を確認する必要がありますから、2015年度末までに治療に必要な中性子ビームになるように調整を進め、2016年中に患者さんの治療(治験)を行えるよう進めていきたいと思っています。BNCTが得意とするがんの中でも悪性脳腫瘍は一刻を争う場合が多いので、完成したら治療を受けたいと思っている患者さんはたくさんいると思います。すでに京都大学の原子炉を使った臨床研究も行っていますし、BNCTを行った経験のない若い医師たちも、その原子炉を使ってトレーニングしている段階です。東海村の装置が完成すれば、そこを使ってすぐに治療ができるよう着々と準備を進めています。

小型加速器の開発に成功すると、どんなメリットがありますか?

BNCTに小型加速器が使われるようになる前は、原子炉を使っていましたが、原子炉だと場所も限られ、世界でBNCT用に稼働している原子炉は2~3か所しかありません。日本の法律では原子炉を動かすのは難しくて、非常に治療効果があることが実証されているのにもかかわらず、BNCTを行うことができませんでした。最近の技術革新で加速器というまったく違った方法で治療に必要な中性子が出せるようになったので、加速器による治療装置の開発に取り組むことになったわけですが、そのおかげでわざわざ原子炉のある場所に行かなくても、医療機関の中で治療ができるようになれば、患者さんにとってBNCTを受けやすい環境ができると思います。

開発にあたって苦労したのは、どんな点ですか?

装置を作るのには非常に膨大なコストがかかります。関係省庁を走り回って資金を集めるのが私の一番の役割ですから、資金を確保するのに大変に苦労しています。BNCTは他の治療法では治すことのできない難治性のがんへの治療効果が期待できる治療法ですから、その点をしっかりアピールして、重要性を理解していただけるよう努力しています。筑波大学では、すでに陽子線治療という先進的な治療装置をもっています。にもかかわらず、さらにBNCTの装置を開発するのは、なぜなのか疑問をもたれるのではないかと思います。そもそも、陽子線とBNCTの違いがわからないと思うので、陽子線では治せないがんに対してBNCTが有効だということを丁寧に説明しています。筑波大学のコンセプトとして、陽子線で治らない場合はBNCTという他の方法があるという状況をつくり、患者さんに最適な治療が提供できる環境を整備したいということを、しっかり伝えていきたいと思っています。
また、このプロジェクトには重工メーカーさんなど複数のグループが参加していますが、いかに皆が同じ方向を向いていくのか、そのとりまとめを行うという役割も与えられています。さまざまな分野の人たちの力を結集して、少しでも多くの患者さんに役立つ装置がつくれるよう、頑張っていきたいと思います。

がん標準治療の中でBNCTはどんな位置づけになりますか?

BNCTは薬に頼った治療なので、薬が集まらないがんに対しては治療効果を発揮できません。また、BNCTに用いる中性子が体に届く深さはだいたい6センチくらいと限界があるので、今のところ、脳や頭頸部のがんはほぼ全部カバーできるのですが、肝臓など体の深いところにできたがんの治療は不得意です。また、患者さんによって治療効果に個人差があるのが現状です。今後、新しい薬が開発されれば、中性子が届かなくても薬のほうで補うことができるので、どんな患者さんに対しても、臓器に対しても治療効果が得られる可能性はあります。最終的には、例えば非常に深い場所にある膵臓がんに対しても、集中的に集まるような薬が開発できれば、BNCTで膵臓がんも治せるようになるかもしれません。

BNCTに取り組むうえで、筑波大学ならではの特徴は?

BNCTに取り組むうえで、筑波大学ならではの特徴は?

我々が開発している小型加速器型のBNCTは病院に併設することを前提に作っています。今までは原子炉を使っていたので、一か所で他の治療法との組み合わせを行うことができませんでした。病院で治療ができるようになると、これまで原子炉でのBNCTが適応にならなかった患者さんには、例えば体の深い場所のがんに対しても、手術で病巣部を開いたうえで術中照射するなどの方法も可能になってくると思います。また、手術や化学療法、他の放射線などと組み合わせることによって、治療効果を高めるなどの工夫が可能になってきます。さらに陽子線とBNCTの両方が揃うことで、それぞれの得意なところを活かして患者さんの治療に提供していくことができるのが、筑波大学ならではのメリットといえるでしょう。

欧米各国で失敗に終わったBNCTが、
なぜ日本で目覚ましい成果をあげることができたのでしょう?

BNCTでは中性子線を使うので、欧米では放射線治療医が行っていました。欧米の医師らはBNCTの原理に頼って少量の中性子線量から段階的に線量を上げて治療を行っていましたが、非常に悪性度の高い悪性脳腫瘍は、治療効果が出る前にがんが再発してまったく効果が表れなかったため、やめてしまったという話を聞いたことがあります。これに対して、日本では脳外科の医師がこの治療を引っ張ってきました。脳外科医はこのがんが如何に悪性度が高くて、中途半端な治療では治らないことをよくわかっていますから、治療効果が出るようにしっかりと照射計画を立てて治療を行ってきた経緯があると思います。日本でBNCTが成果をあげてこられたのは、日本の医師たちの「患者さんを治したい」という強い意志の賜物だと思います。

将来的には、BNCTはどの程度普及していくと見込んでいますか?

将来的には50施設以上、少なくとも各都道府県のがん拠点病院には導入されていくのではないかと期待しています。さらに欧米の先進国やアジア新興国にも広く導入されると思います。BNCTの装置自体は陽子線治療や重粒子線治療よりは安価に整備でき、また、X線や陽子線とは対象となるがんが違うので、すでにX線や陽子線をもっている病院でもBNCTを導入しようと思ってくれる病院がいるのではないかと思います。X線治療装置は国内に800機以上整備され、がん拠点病院だけでなく各都道府県のいろいろな医療機関に導入されていますので、BNCTも速やかに広く導入されることを期待します。

今後、BNCTががんの標準治療になる可能性はありますか?

今後、BNCTががんの標準治療になる可能性はありますか?

BNCTという治療法は、原理的にはがんに薬が入って、そこに中性子が届けば、どんながんでも治せるわけですから、将来的にはすでに確立されている標準治療に置き換わっていく可能性は十分にあると思います。たとえば乳がんは表在性のがんで中性子も届きやすいので、適応になる可能性があると思いますし、すでに京都大学では臨床研究もおこなわれています。普通のX線治療では何回かに分割して少しずつ治療しますが、BNCTでは1回で治療が終わりますので、患者さんの負担も非常に減らすことができます。
もちろん、いまは標準治療でX線の治療が確立している分野に、いきなりBNCTに置き換わることはないと思います。たとえば、1回目の治療でX線治療を受けて再発してしまった場合2回目の放射線治療はできませんが、BNCTなら適応になりますので、再発乳がんはよい適用になるのではないかと思います。そこである程度の治療効果を示していくと、初発のがんに対しても適応拡大していくという流れになるのではないかと思います。

学生の指導も行っていらっしゃるそうですが、
若手研究者のあいだでもBNCTが注目されているのですか?

今まで知らなかった治療で治らないがんが治るかもしれないということに興味をもっている人が増えていると思います。BNCTは医療・医学分野だけでなく、薬学、化学、物理学、工学などいろいろな分野が組み合わさって治療が成立します。私自身、大学の専攻は医療関係でも原子力でもなく、機械工学でした。就職先が原子力機構で、原子炉の運転に携わっていたので、たまたまBNCTの研究に参加するようになりました。医師に限らず自分の得意分野で何か参加したいと思えば、コンピュータのソフトウエアの開発、動物実験、化学実験など必ずどこかにつながるところがあると思います。

研究者としての毎日は充実していらっしゃいますか?

研究者としての毎日は充実していらっしゃいますか?

多くの研究者が多種多様な研究を行っているなかで、それぞれ研究費の獲得に大変な思いをしても、なかなか最後まで注目されずに終わってしまう研究も多いのではないかと思います。そんな中で、たまたまかかわったBNCTが最近注目され、大学の中でも大きなプロジェクトの一つとして位置付けられているのは、大変恵まれていると思います。逆に注目されている以上、最後まで責任をもって頑張らないといけないですし、国からも支援してもらっているので、それを無駄にしないようしっかりと確立して患者さんに提供できるところまでもっていきたいと思っています。

医学物理という分野は、基礎的な分野ではないので、ノーベル賞をとるような研究ではないと思いますが、医療現場に非常に近く、自分の研究成果が患者さんに直結しやすい。常に人よりも半歩先をいった研究の成果を患者さんに提供できるようにできるようになればいいと思っています。

余暇の時間は何をしてすごしていますか?

今は仕事が趣味ですね。プライベートでは1歳の男の子がいて、子どもを風呂に入れるのが子育ての中での唯一の僕の仕事です。そのために8時~9時には帰らなければならないので、他の先生たちよりも早く帰らせてもらっています。車が趣味なのですが、二人乗りのオープンカーに乗る時間はほとんどなくなりました。チャイルドシートもつけられないので、次は家族で乗れる軽自動車に買い替えですかね。

いま、一番尊敬しているのはAKB48の総監督・高橋みなみさんです。48グループのみんなから尊敬されて、あの大所帯を仕切っているのは、すごい才能だなと思います。BNCTのプロジェクトでは、参加している各研究機関の大先輩の研究者やいろんな業者さんも含めて組織を統率していかなければなりませんし、大学では学生の面倒もみなければいけません。最初はどう役割を果たせばよいのか、わからなかったのですが、You Tubeなどで、“たかみな”さんの活躍ぶりを見ていると、参考になる部分がたくさんあります。

趣味はダイエット(笑)。といっても間食してばかりなので、なかなか思い通りにはいかないのですが、自宅から職場まで3.5キロをウオーキングで通勤しています。

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