陽子線治療の今後を考える特別対談『陽子線治療における筑波が担う役割とは?』

坪井 康次 陽子線医学利用研究センター長×榮 武二 教授 医学物理学専攻

坪井 康次 陽子線医学利用研究センター長×榮 武二 教授 医学物理学専攻

坪井 康次 陽子線医学利用研究センター長×榮 武二 教授 医学物理学専攻

『次世代の陽子線治療を目指して』

『次世代の陽子線治療を目指して』

筑波大学では、15年前に一つのひな形になるような陽子線装置をつくり、全国からたくさんの人が見学に来て、次々と新しい装置ができてきました。これまで、全国各地の装置に影響を与えるという役割は果たしてきましたが、今後はさらに新しい装置を開発していかなければならない段階にきています。

坪井1983年より筑波大学が主導となり本格的臨床研究を始め、治療効果が認められ、その後国内だけでなく世界各地に陽子線治療が普及してきたというのは、とても重要な事実だと思います。

新しい装置を開発するといっても、先進的なキ-ワードを入れていくことに集中しすぎるとあまりよくないと思っています。これから考える新しい装置というのは、今の治療よりもさらに効率や質が高められるようなものでなければならない。

坪井臨床上は、適応疾患や適応患者さんの拡大を可能にする装置を作っていくことが大事だと思います。もう一つは、費用が高いので、安く治療ができるような装置をつくることも大事です。また、理想としては、より小さな腫瘍を正確に治療できる装置を目指しています。

照射領域は3cmより小さいと難しいのが現状です。少し改良すれば、半分くらいにはなるかなと思っていますが、陽子線は広がってしまう性質があるので、狭い領域に正確に照射するのが困難です。

『次世代の陽子線治療を目指して』

坪井手術が難しい固形腫瘍を治療できるという点は、陽子線治療の非常に大きなメリットだと思います。

将来的には現時点で治療できていないがんもできるようになりますか?

坪井がんに限らず血管の病気なども手術しないで陽子線で治る、など適応の拡大がはかれるようにしていくことが非常に重要だと思っています。装置の開発という意味で精度を増すことは可能ですか?

新しい機能を増やすことで精度が低下してしまわないよう注意が必要だと思っています。たとえば装置が故障した場合、従来の装置では1日で修理できたのに、何か新しい機能を追加すると、修理に1週間かかるとなると、かえってマイナスになります。その間、治療が完全にストップしてしまうわけですから。これまで陽子線治療で使われていないような技術、たとえば超電導磁石などは物理実験では使われていますが、陽子線治療ではまだ使われていない。そういうものを追加していこうとすると、照射領域が小さくできるなど、確かに性能は上がることが期待できます。ただ、結果として故障したときに修理しにくくなってしまうとまずいでしょうね。

坪井医療機器なので信頼性、安全性が重要になります。

安全性を保ちながら照射サイズを小さくする、コストを下げるということは少しずつ進んできているわけですが、装置の改良をすればするほど治療そのものの効率を下げてしまうリスクも出てきてしまうので、そのへんのバランスは気を付けなければいけませんね。

坪井民間の施設でも陽子線治療をはじめている中で、大学の陽子線医学利用研究センターの役割とは何かを改めて問われているときだと思います。学問だけにとどまらず、新しく画期的で先進的な、結果的に患者さんに還元できる技術を開発することが求められています。いま何が問題かを我々が実験で明らかにして発表し、それをさらに臨床へと結びつけていくことが必要です。陽子線治療は手術に替わる治療だといわれますが、それはある意味正しくて、陽子線があるので手術しなくてよかったという患者さんはたくさんいるだろうと思います。ただ、陽子線治療は局所治療なので、全部のがんが治るわけではありません。手術と同様の弱点は、遠隔転移の予防ができないということです。手術で摘出しても、その辺縁から再発するということもある。再発や転移を克服するためにはどうすればいいのか、全身的な治療とどう組み合わせていくのかを考えていく必要があります。筑波大学の役割は、大学でなければできない基礎研究を行い、いろんな研究所に知恵を広めていくことではないかと思います。

『大学に求められる人材育成』

この分野は特殊ですから、人材不足も深刻です。筑波大学は、新しくできた陽子線治療施設に行って働く人材をトレーニングして輩出していく役割も担っていかなければいけません。

坪井榮先生のところにはたくさん大学院生が来て、トレーニング受けていますね。なかなか優秀な人が来てくれているようですが。

大学院をつくったので学生は集まってきているのですが、海外からが多いですね。国に帰ってしまうわけで、世界的に貢献しているということはいえるわけですが、日本の学生にも、もっと頑張ってほしいと期待しています。医学物理の人材教育としては、研究のための実験ができることも大切ですが、やはり臨床の場があることのメリットは大きいと思います。学生たちが自分で考えて問題を発見できるような場を作ってあげられるよう工夫しています。

坪井研究者だったら、最終的に独り立ちできなければうまくいったとはいえない。どうやって独り立ちさせるかが一番重要で難しいところです。才能もあると思いますけど。一番大事なのは本人のやる気ですね。

日本の学生はやる気を出すという機会を与えられてこなかったんですよ。そういう教育ってしてないでしょう? 目立っちゃいけないんじゃないかとか。どんどん目立っていいんです。

『大学に求められる人材育成』

坪井日本の学生も負けないように頑張って欲しいですよね。東南アジアからくる学生はすごいですよ。

海外の学生はよく頑張っています。本当にやる気がある。

坪井ちょっと違いを感じます。頼もしいですね。

それを日本の学生が見ますから、それは実験が刺激になっていいですよね。
刺激になってそれで日本の学生もやれるかなと思うわけですから。

坪井論文が通った時の喜びとか、実験がうまくいったときの喜びを感じて研究者としてひとり立ちしてほしいですね。

人材育成の場がたくさんある分野なら良いのですが、陽子線治療はそういう分野ではないので、すごく期待されてしまうわけです。「君、筑波から来たのだからできるよね」と(笑)。それなりに本人の力で突破できる人を教育していかないと、うまくいかないと思うんです。他にそういう場がないわけですから、こういう特殊な分野での人材教育はすごく難しいと思います。

坪井放射線生物学は生物学だけでなく物理の知識も不可欠になります。生物の反応や遺伝子にどれくらい傷がつくかとか、どう治っていくかという研究を行う上で、物理的な方法がきちんとしていないと成立しません。そうした意味で、筑波大学は、生物と物理の両方がきちんと研究できる。陽子線治療を研究する環境としては非常に恵まれているのではないかと思います。

『総合力を活かして、世界最強の放射線治療チームへ』

『総合力を活かして、世界最強の放射線治療チームへ』

陽子線治療施設が増えてくる中で、筑波大学ならではの特徴は、やはり医学物理学、放射線生物学、放射線腫瘍学が一体となった総合力だと思います。安定で安心な治療ができていて、かつ臨床的にも何か特別なことが起こっても総合病院なので対応できるという点が大きなメリットです。

坪井実績に裏付けられた総合力、ですね。

見学に来た人たちに、陽子線が一番なのではなく、選択肢の一つだという話をすると、わりとびっくりします。陽子線治療だけしかできない施設だと、患者さんを確保するために、陽子線が一番という説明をするかもしれませんが、うちでは陽子線治療は特徴のある治療法だから、全体の中の一つだと話すと、みんな不思議な顔をします。最初に陽子線ありきではなく、その患者さんがどういう治療を求めているのか、患者さんが主体で何が一番いいのかを選択できる。そのなかにBNCTもある、陽子線もあるという点が、筑波の最大のメリットだと思います。新しい治療法が万能なわけではなく、得意な領域が増えるという位置づけなので、陽子線をやめてBNCTにいくということではなくて、いくつかの治療法を組み合わせ、複数の選択肢の中から、その患者さんにとってベストな方法を選択できるということきわめて重要です。

『今後、取り組むべき課題とは』

『今後、取り組むべき課題とは』

坪井私はもともと脳外科医で脳腫瘍の治療をしていましたので、悪性脳腫瘍は非常に治療が難しいことを痛感しています。現在、通常のX線の1.5倍くらいの高線量をかけるような治療をしているのですが、そのため皮膚障害などの副作用も起こりやすくなります。患者さんにはメリット、デメリットをよく説明するようにしています。

私たちは装置のメンテナンスや開発を担当しているので、患者さんと直接やりとりすることはないのですが、現場の医師たちが患者さんに対して十分な説明ができるよう支援をしていきたいと考えています。たとえば治療したあとに皮膚がどのくらい変化するのか、前もって予測できていないと説明できないわけですから、我々が情報を出していかないといけないと思っています。

坪井治療後に皮膚がどうなるのかをグラフで表すことができれば、患者さんにとってわかりやすいですね。いまは経験でやっているので、数値化するのはとても大事なことだと思います。

まだまだやらなければならないことは残されていますね。

坪井今後は標準治療のみを行っている医療機関でも、陽子線治療を選択肢の一つとして患者さんに提示する医師も増えていくのではないかと思います。そのために、我々は積極的に論文発表、学会発表をしていくことが大切です。

医師たちは臨床的に成果が出ている治療の論文は見ていますから、手術が難しいケースを紹介してくれるケースは今後さらに増えてくると思います。今後、さらに研究を進めて、より精度の高い治療を安全に提供できるよう取り組んでいきたいと思います。

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