陽子線治療について

治療の対象となる主ながん

陽子線治療は体への負担が少なく高い治療効果が得られるため、がん治療の有効な選択肢の一つです。しかし、すべての病気に対して行える治療法ではありません。
以下の条件を満たしていることが必要であることをご理解ください。また、陽子線治療に適しているかどうかは、当センターの専門医が総合的な見地から診断いたします。病気の種類や状態などによって、陽子線治療よりも他の治療法が最適であれば、附属病院の他の専門医と協議しつつ、別の治療法を提案いたします。

基本的な条件

  • 他の臓器への多数の転移がなく、病巣が一定の範囲に限られていること。
  • これから陽子線治療を受けようとする部位に、以前、放射線治療を受けていないこと。
  • 病気についての告知を受けており、患者さんご本人が陽子線治療を受ける意思を持っていること。

肝臓がん治療期間:2~7週間

肝臓がん(肝細胞)がんのほとんどは、B型あるいはC型肝炎ウイルスによる肝硬変を経て発症しますが、最近ではウイルスに関係のないがんが増えています。陽子線治療は、がんに集中的に放射線を照射するため治療効果が高く、正常な肝臓へのダメージが小さいため肝機能の低下が起こりづらい治療法です。

肝臓がんの治療について

肝臓がんの治療は肝切除療法(手術)、ラジオ波焼灼療法、肝動脈化学塞栓療法、放射線療法、化学療法などがあります。

肝臓の状態やがんの進行具合、患者さんの治療への考え方をもとに、治療法を選択します。

肝臓がんの陽子線治療について

肝臓がんの陽子線治療の特徴は、がん(腫瘍)が比較的大きくても、また肝臓の状態が悪くても治療できるという点です。言い方をかえると、がんに照射する陽子線量を高く設定できるため治療効果が高く、一方で正常な肝臓へのダメージが少ないため、肝機能の低下が起こりづらい治療法です。

副作用としては、ひとにより肝機能の悪化や日焼け様の皮膚炎、肝臓の周りにある胃や腸の炎症が起こることがあります。

治療対象となる病態・条件など

  • 病巣が3個以下であること。
  • 肝臓以外に臓器転移がないこと。
  • 肝機能がある程度保たれていること。

治療にあたっての留意点

より精密に照射するために、肝臓にシャープペンシルの芯程度のサイズの金属マーカーを挿入する場合があります。

治療経過写真

  • 治療前治療前
  • →
  • 治療終了後2週間治療終了後2週間
  • →
  • 治療終了後2ヵ月半治療終了後2ヵ月半
  • →
  • 治療終了後8ヵ月半→無再発治療終了後8ヵ月半
    →無再発

前立腺がん 治療期間:4~5週間

前立腺がんの患者さんは、健康保険で陽子線治療が受けられます。当院の陽子線治療では、非常に高い効果と副作用の低減が示されています。
前立腺がんの治療法は、外科的治療、放射線治療、ホルモン療法などの治療法があり、血液検査、画像検査、病理検査で治療方針を決定します。陽子線治療は、放射線治療のなかでは最も有効で安全性の高い治療法の一つです。受診の際には、泌尿器科の主治医と相談されてから検査所見(特に生検組織標本)をお持ちいただくと方針決定が速やかに行えます。

治療対象となる病態・条件など

  • 臓器転移、リンパ節転移がないこと。
  • 病巣の状態によって、低・中・高リスク群に分類されますが、低リスク群の場合は陽子線治療のみ、中・高危険群の場合はホルモン療法を併用します。
低リスク群 放射線の単独療法
中リスク群 放射線治療+ホルモン療法(半年程度)の併用療法
高リスク群 放射線治療+ホルモン療法(3年程度)の併用療法

治療にあたっての留意点

より精密に照射するために、前立腺にシャープペンシルの芯程度のサイズの金属マーカーを挿入する場合があります。

肺がん 治療期間:2~7週間

肺がんは、がん細胞の形態によって、いくつかの種類があります。肺に病変が限局した肺がんの場合は、病変の部位と場所にもよりますが最短であれば約2週間の通院治療が可能です。近くのリンパ節に転移の見られる進行期の非小細胞肺がんの場合は、化学療法の併用が必要なことが多く、6~7週間かけて陽子線治療を行います。
通常の放射線治療に比べて陽子線治療は、肺や心臓や骨髄などの臓器へあたる放射線の量を低減し、副作用の軽減が可能です。

治療対象となる病態・条件など

  • リンパ節転移を認めるが、肺以外の臓器に転移のない非小細胞肺がんの方。
  • 病変が肺に限局している肺がんであるが、併存疾患などにより外科治療が行えない、もしくは外科治療を希望されない方。
  • 進行期肺がんは化学療法を併用することが多いです。

治療にあたっての留意点

治療中、治療後とも禁煙が必要です。
化学療法を併用する場合は、入院が必要になります。

治療経過写真

  • 治療前治療前
  • →
  • 治療終了時治療終了時
  • →
  • 終了後1ヶ月終了後1ヶ月

食道がん 治療期間:6~7週間

食道がんの治療法は、主として病変が小さければ内視鏡的切除、大きくても切除可能であれば外科的切除が行われています。
しかし病変の周囲への浸潤のため手術できない場合や、合併症や高齢のために手術に伴うリスクが大きい場合には、化学療法を併用した放射線治療が有効とされています。
当院では放射線治療の中でも陽子線を用いることで、食道がんへの治療効果を保ったまま、脊髄、肺、心臓といった重要臓器の重篤な副作用を顕著に減らすことができます。

治療対象となる病態・条件など

  • 他の臓器、骨などへの転移がないこと。

治療にあたっての留意点

  • 照射中および照射後の一定期間は禁酒です。
  • より精密に陽子線を照射するために、食道に内視鏡でクリップを留置する場合があります。
  • 化学療法を併用する場合には、消化器内科・外科の専門医と密接な連携をとって行います。
  • 陽子線治療に伴う食道炎の状態に応じて、胃瘻の造設やカテーテルでの栄養補給を行う場合があります。

治療経過写真

  • 治療前治療前
  • →
  • 治療終了後2週間治療終了後2週間
  • →
  • 治療終了後2ヶ月半治療終了後2ヶ月半
  • →
  • 治療終了後8ヶ月半→無再発治療終了後8ヶ月半
    →無再発

膵がん 治療期間:5週間

膵がんは、完全に治すことが難しいがんの一つです。早期発見が困難で、重要な血管を巻き込むことがあるため、手術が難しい場合が多く、そのような場合には化学療法を併用した放射線治療を行います。
当院では、放射線治療の中でも陽子線治療を行うことで、安全性を担保しつつ、強度を高めた治療を行っています。また、効果をより高めるために温熱療法(ハイパーサーミア)を併用しています。
これらの取り組みにより、通常のエックス線を用いた放射線治療よりも治療成績の向上が認められています。

治療対象となる病態・条件など

  • ほかの臓器への転移や播種などがないこと。

治療にあたっての留意点

  • 化学療法をすでに開始されている場合でも、治療することが可能です。
  • 糖尿病をお持ちの方で、コントロールが顕著に悪い場合には、紹介元の病院で改善していただいてから治療を行う場合があります。

頭頸部がん 治療期間:4~7週間

鼻腔がん、副鼻腔がん、耳下腺がん、外耳道がんに加えて、腺がんや悪性黒色腫などの一般的に放射線が効きにくい種類のがんに対して、健康保険で陽子線治療が受けられます。
外科的手術、放射線治療、化学療法を組み合わせた集学的治療を行うことが多いです。

治療対象となる病態・条件など

  • ほかの臓器への転移がないこと。ただし、腺様嚢胞がんの場合は、無症状肺転移を有するものも適応となる可能性があります。

治療にあたっての留意点

  • 副作用は、病巣の大きさにより異なるため、診察時に詳しく説明します。

脳腫瘍 治療期間:5~6週間

脳腫瘍は頭蓋内で発生する原発性脳腫瘍と、ほかの臓器からの転移によってできる転移性腫瘍とに分けられます。脳腫瘍が疑われた場合、造影剤を用いたMRIなどの画像診断を行います。原発性脳腫瘍が疑われた場合は、可能な限り手術で腫瘍を摘出し、摘出した組織の検査を行い、治療方針を決定します。

治療対象となる病態・条件など

  • 原発性腫瘍では悪性神経膠腫、手術による摘出が困難な髄膜腫や神経鞘腫など。
  • 転移性腫瘍では他の放射線治療が可能なため、陽子線治療は行っていません。

治療にあたっての留意点

治療ではできる限り視神経や脳幹などを避けるように治療を行います。

頭蓋底腫瘍 治療期間:5~6週間

頭蓋底腫瘍などの骨軟部腫瘍(いわゆる肉腫と呼ばれるもの)では、健康保険で陽子線治療が受けられます。
脳を支える部分にできる腫瘍を頭蓋底腫瘍と呼びますが、腫瘍はいずれも深部にでき、多くの重要な神経や主要な血管などに隣接、あるいは癒着していることが多く、手術が難しい部位です。
具体的には、脊索腫、軟骨肉腫などの疾患があります。そのほか鼻腔・副鼻腔や眼窩から発生したがんが、頭蓋底へ進展する場合があります。

治療対象となる病態・条件など

  • 手術が不可能な場合や手術で完全に摘出することが難しい場合。

治療にあたっての留意点

治療ではできる限り視神経や脳幹などを避けるように治療します。
重要な神経や機能が密集する部位のため診察時に詳しい説明をします。

小児がん 治療期間:2~6週間

小児がんの患者さんは、健康保険で陽子線治療が受けられます。
小児では、放射線治療により、骨の成長、知能発達、内分泌機能などの影響が出る可能性があります。また、小児がんが治った後に、長い期間を経て再び新しいがんができることがあります。これを二次がんと呼びますが、放射線治療を受けたことが影響すると考えられています。
陽子線治療は、正常組織への放射線をできるだけ減らして、これらの合併症の発症を抑えることができる治療法なので、小児に放射線治療を行う場合には、世界的に陽子線治療を用いるように推奨されています。

治療対象となる病態・条件など

  • 小児固形がんで放射線治療が必要な場合。

治療にあたっての留意点

化学療法や手術と組み合わせて治療する必要がありますので、まず主治医と相談してください。
治療のタイミングが大切ですので、早めにご相談ください。

受診方法

主治医と当院の小児科・放射線腫瘍科の連携が必須です。当院の受診方法はこちらを参照してください。

 

 

ご自身の病気が陽子線治療に適しているかどうか詳しくお知りになりたいたい方は、こちらよりお問い合わせください。