放射線治療の主な適応疾患

治療の対象となる主な病気についてご説明します。

放射線治療はがんの三大療法の一つで、手術や化学療法(抗がん剤治療)とともにがん治療の中で重要な役割を果たしています。
放射線治療は手術と同様、がんやがんの周辺のみを治療する局所療法ですが、正常組織を残して治療できるため、臓器の形や機能が温存できる点が最大の特徴です。
近年、治療装置の性能向上により、放射線治療の精度が急速に進歩しています。正常な組織にはできるだけ放射線を当てず、がんのみに集中的に照射することが可能になったことで、治療効率も向上し副作用の少ない放射線治療の実現が可能となっています。

脳腫瘍

脳は人間の体をコントロールしている大切な臓器です。できるだけ機能を損なわない治療が望ましいことから、手術では切除しきれなかった部位や手術のできない部位に対して放射線治療が行われることがあります。
放射線の照射方法には、脳全体を囲いこむように照射する「全脳照射」、腫瘍やその中心を照射する「局所照射」、脳室を照射する「全脳室照射」など病気の状態に即した照射方法がとられます。
また、がんのタイプや広がり、大きさや局在を総合的に評価して手術や薬物療法を併用し治療効果を高める方法がとられることがあります。

頭頸部がん

頭頸部がんは首から上の脳以外にできるがんの総称です。この部位には人間が生きる上で欠かせない機能(話す・食べる・聞く・みる・息を吸う等)が集中しています。そのため、できるだけその機能を温存するために放射線治療が選択されることが多くあります。

代表的な頭頸部がん

●上咽頭がん

手術が困難なケースが多く、放射線が効きやすいタイプの腫瘍が多いため、放射線をメインとした治療が選択されます。病気の状態によっては化学療法と併用されることもあります。

●中咽頭がん

治療後の機能(特に嚥下機能)が温存できるかどうかや腫瘍の広がりなどを検討し、手術がよいか放射線治療がよいかが決定されます。比較的早期で見つかった中咽頭がんの場合には放射線治療単体で治療することがありますが、進行したケースには手術や化学療法を併用する場合があります。

●下咽頭がん

中咽頭がん同様、早期で見つかった場合には放射線治療単体で治療することはありますが、病気が進行していたり広がったりしているケースには手術が選択されることがあります。言葉を話す重要な機能を持つ声帯があるため、病気の進行度にかかわらず声帯温存を目的に放射線治療(+化学療法)が選択されるケースも多くあります。

●鼻・副鼻腔がん

一般的に進行したがんには広範囲の外科切除で対処しますが、鼻や副鼻腔周辺には重要臓器があり、治癒率を下げずに顔の形態や視機能を損なわないような治療が必要となります。そこで治療では手術療法、化学療法、放射線療法のよいところを組み合わせた三者併用療法が広く行なわれています。

食道がん

食道がんの治療は病期によって異なります。早期の場合には内視鏡治療で完治が見込めることがありますが、がんが深い場合やリンパ節転移の可能性がある場合には内視鏡治療では不十分なことがあり、手術や化学放射線治療(化学療法と併用しながら行う放射線治療)が必要になります。
がんが食道にとどまっていて、リンパ節への転移が少なく、十分な体力がある場合には手術が選択されることが多いですが、手術はからだへの負担が大きい為、年齢や合併症を考慮して化学放射線療法で治療するケースも増えてきました。手術と化学放射線療法との治療効果差が大きくない場合もあるので、合併症などを考慮し、主治医とよく話しあって治療法を検討することが重要です。

肺がん

肺がんには非小細胞肺がんと小細胞肺がんという種類があります。早期の非小細胞肺がんには手術が標準的な治療ですが、高齢や合併症のために手術ができない場合や手術を拒否する場合にも3次元放射線治療や粒子線治療などの高精度の放射線治療を行うことで完治を目指すことができます。早期の非小細胞がんに関しては、病巣に集中的に放射線を照射する定位放射線治療という方法を用いることで、手術と同等の治療効果が報告されるようになってきています。
ある程度進行した非小細胞がんや小細胞がんには放射線治療を行うことが一般的で、体力が許せば化学療法が併用されることもあります。

乳がん

最近の治療では乳房の形態を保つ乳房温存療法が一般的になってきました。乳房温存療法とは、乳房の部分切除と放射線治療がセットになった治療法の事です。部分切除だけの場合と比べて、術後に放射線治療を行うことで、乳がんの再発を3分の1に低減させることができるとの報告もあります。

前立腺がん

前立腺がんに用いられる放射線治療には大きく分けて、からだの中に放射線の線源を入れる「小線源治療」と、エックス線や粒子線をからだの外から照射する「外部放射線治療」の2種類があります。外部放射線治療にはIMRT(強度変調放射線治療)や陽子線治療、炭素線治療などがあります。小線源治療は悪性度の低い前立腺内にとどまった前立腺がんに適しているとされています。いずれの方法も特徴があるので、主治医とよく相談し治療法を選択することが重要です。

子宮頸がん

比較的早期の子宮頸がんの場合、放射線治療と手術との成績はあまり変わらないとされています。また、子宮の外へがんの広がりが強い場合は手術ではなく、放射線治療が選択されます。放射線治療では外部照射と腔内照射(子宮の中に線源を入れて照射する方法)を組み合わせて行うことが一般的です。必要に応じて抗がん剤を併用することもあります。ごく早期の場合には腔内照射だけを用います。

上記以外の疾患にも放射線治療の特性を生かせる場合があります。
放射線治療の可能性を検討したい場合や疾患ごとの細かな治療成績については専門家である放射線腫瘍医にアドバイスを求めることをおすすめします。

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